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【特別企画】「松嶋啓介シェフが教える目からウロコの食材活用法!」Q&Aレポート

パイナップルの芯はシャーベットに。 余ったドレッシングには揚げ物を漬けて南蛮漬けに。

与えられたレシピで作ろうとするから食材が余るし、 ゼロイチ(ゼロから何かを生み出すこと)を経験しないまま、 作られたモノを買って消費する生活をしているから何でも平気で捨てられるようになるんです。

「もったいない」精神の国・日本を旅して食品ロス解決の糸口を探すドキュメンタリー映画『もったいないキッチン』 が、8 月、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開となります。

冷蔵庫で余らせて捨ててしまう廃棄食材などを美味しい料理に変身させるという本作を、新型コロナウイルスの影響で料理をする機会が多くなっている今こそ観て欲しいという想いから、5月末に1週間限定オンライン先行公開を実施しました。大きな反響をいただき、先行公開特別企画がとして6/6(土)に、フレンチのトップシェフ松嶋啓介さんが食材活用法を教えてくれるオンライントークイベントを開催しました。以下レポートです。

「もったいない」。無駄をなくすというだけでなく、命あるものへの畏敬の念が込められた日本独自のこの美しい言葉に魅せられ、オーストリアから日本にやってきた映画監督のダーヴィド・グロス。食品ロス解決の糸口を探るべく、 日本をキッチンカーで巡る旅に出かけます。ところが、日本はもったいない精神の国にも関わらず、実は食品ロス大国であることに直面します。食材救出人の異名も持つダーヴィドは、コンビニエンスストアや一般家庭を次々突撃し、 まだ食べられるのに捨てられる運命の食材を救出。日本人シェフや生産者たちの協力を得て、廃棄食材を美味しい料理に変身させる「もったいないキッチン」を各地でオープンします。

今回、フランス政府よりシェフとしては初、最年少で「芸術文化勲章」を授与されたトップシェフ松嶋啓介さんに「余らせがちな食材の活用法」を聞けるという贅沢なこのイベント。野菜の芯や、調味料まで、幅広い食材の質問が次々飛び出しました。トップシェフから伝授される目からウロコの活用法をご紹介します!

質問 「ナスのヘタ、パイナップルの芯、果物の種の活用法を教えてください。果物の種は、ミネラル豊富だから本当は食べたいけど美味しくするアイデアがありません」

松嶋 「全部固形で食べようと思うと限界があります。例えば果物の種やナスのヘタなどは発酵させたり、またはじ っくり煮込んでダシとして使うということはできます。パイナップルの芯は、食物繊維がとても豊富です。実も芯も 凍らせてミキサーにかけシャーベットにしてしまうのはどうでしょう。芯だけで考えるとどう活用しようか?となりますが、そもそも実と芯を分けて考えないようにすればいいんです。どうしても芯だけ残ってしまったというのであれば、サイコロ目に切ってシロップで煮れば柔らかくなって美味しく食べられます。」

質問 「キャベツの芯や、野菜類の根に近い部分など、もったいないなと思いながら捨ててしまいます」

松嶋 「人類は火を使わなければ猿なんですよ。火は我々人間が最初に得たテクノロジーです。根や芯が食べられないという人の大半は、この人間のテクノロジーを使っていない、つまり加熱時間が短いんです。長時間加熱すれば食材は必ず柔らかくなります。煮込めば煮込むほど柔らかくなるし、煮れば煮るほど味は出てくる。または天日干し、 つまり太陽によって加熱すれば発酵して柔らかくなったりもします。昔の人はそうやって時間をかけて火を通し、 食材を柔らかくしていました。そうした昔の人が実践していたことを、現代の私たちは便利さに怠けて気づけれな い社会になってしまっているとも思います」

質問 「賞味期限切れのドレッシングや調味料類、らっきょうを浸けた残り酢の活用法を教えてください」

松嶋 「蒸した野菜を漬け込んでおくのは一つの手です。ドレッシングは基本的には酢と油ですから、揚げ物を漬け 込めば南蛮漬けになります。ただ、ドレッシングは冷蔵庫にいれておけばそうそう腐らないですね。

またらっきょうの残り酢は、らっきょうの味や甘みが染み出ていますから、ここに何か野菜を漬け込むといいです。 この質問を聞いていて思うのは、ゼロイチ(ゼロから何かを生み出すこと)を経験しないまま、作られたモノを買っ て消費する生活をしているから何でも平気で捨てられるようになってしまう、ということ。この質問した方、らっきょう買ってきているでしょう(笑)。もし自分でお酢を一から作っていたら捨てられないはずですから。作るまでしなくとも、作っている現場を見に行くだけでもいいです。そうしたら簡単にモノは捨てられなくなります」

質問 「常備しておくとよい、持ちのよいちょい足し素材や調味料を教えてください」

松嶋 「昆布!日本人は絶対に昆布です。軽くて場所取らない、何に入れても美味しくなる旨味調味料です。日本人は昔から昆布を大切にしてきました。だから正月から食べるんですよね。語呂合わせで「ヨロコンブ」とも言いますね。昆布さえ入れていればなんでも美味しくなるんです。

実は昆布って、精進料理の発展と共に日本全国に広まったんです。鎌倉時代のことです。いろんな病気が流行し、戦争があって、震災があって、平均寿命が 27 歳くらいだったと言われて世の中が一番荒れていた時代。その時代に出てきたのが、曹洞宗という禅宗なのですが、その禅宗の人たちが食べていた食事というのが心身ともに子孫繁栄に繋がる昆布でした。昆布ほど簡単にミネラル成分を摂れるものは他にないです。ただ、現代人は昆布をダシだと 思って液体だけ摂取している。これはもったいない。昆布そのものも食べれば、昆布のミネラル成分をすべて摂れ て腸内環境もすぐに整うのに。 昆布を全部食べていた時代に、「もったいない精神」が生まれたのだと思います。 僕たちは自分たちの生まれた国の歴史を紐解けば、答えをすべて持っているのに外国人に言われなきゃ気づけないんですよね」

質問 「スパイスを使った料理が好きなのですが、松嶋シェフも余りがちになってしまうスパイスはありますか?それはどんな風にお使いになりますか?」

松嶋 「皆さん、レシピ通りに作ろうとしていますよね。けれど、レシピって本当はそんなに世の中に必要ないんです。 これいれたら、ああなる、という意味を理解すればいいんです。なんでクミン使うの?なんでチリペッパー使うの? と。スパイスそれぞれの特徴を理解すればいい。レシピを作ろうとすると、レシピに書かれている●●を何杯…と入れるわけです。でも、クミンを入れたら香りが豊かになるということを知っていれば、レシピに書かれていなくても 「私はこの香りが好きだからクミンを入れるわ」となるわけですよね。つまり、スパイスの特徴を理解せずレシピ通りに使っているだけの人が、スパイスを余らせているんです。
自分自身で自分の好みの匙加減をわかること、自分自身が料理に対してものさしを持つことが欠けている。料理と は、理(ことわり)を料(はか)ると書いてリョウリ。道理、摂理、地理、物理、管理、生理…いろんな理(ことわり)を料 (はか)るのが料理なんです。それなのに、そうしたことができずに、与えられたレシピを作っているからモノが余 る、ということです。まぁ、それでも余ってしまったら、カレーに放り込んでいたら OK です(笑)」

質問 「コールドプレスジュースの後の人参の繊維を美味しく食べられる方法はありますか?」

松嶋 「コールドプレスジュースがみんないいと思ってますけど、繊維と一緒に摂るから野菜は身体にいいんです。繊維を摂ってないコールドプレスジュースは、栄養が吸収されていない、垂れ流しだと思ってください。例えば、栄養ドリンクを飲んだ翌日、トイレに行って栄養ドリンクの臭いがしたって経験ありますよね。噛まずに摂ったものは吸収されずに垂れ流しなんです。これはサプリにも言えることで、そろそろ食物繊維も含めていただくことの大切さに気付いて欲しいですね。昆布が身体にいいからって、こぶだし飲んでます!という方いますけど、昆布というのはあ の繊維に食物繊維がいっぱいあって、それを食べるから腸に良質な菌が届くのであって、こぶだしだけ飲んで身体 にいいなんていう都合の良い話はない!(笑)

どうしてもというなら、繊維の部分だけ細かく刻んでスープに入れるという使い方はありますね。」

質問 「フードロスをなくしていくために規制は必要なのか、また必要ならば現実的な規制ってどんなことがあるのでしょうか?それぞれ個人の努力の限界はあると思います」。

松嶋 「簡単ですよ!夏休みに野菜と果物を自分で畑をおこして収穫作業をすれば、モノは捨てられなくなるはずです。日本はそういう就労体験がなさすぎるんです。それも学校がやることではなく、家庭でやることだと思います。生きるうえで必要なこととして家庭で子供に教えるべきです。」

質問 「来るアフターコロナの時代、またはウィズ・コロナの時代に、「もったいないキッチン」で何ができますか!?」

松嶋 「この映画は誰かと一緒に観るというのが大切だと思います。一緒に観て、一緒に料理して、一緒に食べる。 それが答えです。コロナは、人類にそういう時間を作ってくれたんだということに気づかねばいけないと思います。 コロナは寄り添うということも私たちに教えてくれました。落ち着いたら、是非寄せ鍋をしてほしいですね(笑)。加熱時間が長くなれば食べ物はなんでも美味しくなるし、寄せ鍋ってレシピがないですから。」

【プロフィール】 松嶋 啓介 (Keisuke Matsushima)

小学生の頃より料理人を夢見て、エコール辻東京を卒業。酒井一之シェフのフレンチ「LE VINCENNES」(東京・渋谷)の門を叩く。20 歳でフランスへ渡り、フランス各地で修業を重ねたのち、2002 年の 25 歳、フランス・ニースにレストラン「Kei’s passion」をオ ープン。南仏の素材を活かした斬新な料理が評判を呼び、2006 年、28 歳の時に本場フランスのミシュラン一つ星を外国人最年少で獲得。名称を「KEISUKE MATSUSHIMA」に改めて拡大オープンし、現在に至る。日本国内においては、2009 年 6 月、東京・ 原宿に「Restaurant-I」を開店。2014 年 7 月開業 5 周年を迎え、東京店はニース本店と同じ「KEISUKE MATSUSHIMA」 に店名変更。メニューコンセプトから、空間演出に至るまで「南仏ニースを時差なく感じられる落ち着いた空間」を作ってきた。
2010 年 7 月、フランス政府よりシェフとしては初、最年少で「芸術文化勲章」を授与され、2016 年 12 月には、フランス政府より「農事功労章」を受勲。現在はオーナーシェフとしてのみならず、日本帰国時には「パパだけの料理教室」、「ママだけの料理教室」、「美食の寺子屋」、「食から学ぶ経営術の料理教室」など日仏の食文化を守り、本当の豊かさを学ぶ料理教室の活動をはじめ、団体・企業での講演会も行っている。2018 年 12 月、WIRED Audi Innovation Award 2018 にて世界を変え「新たな未来」をもたらす 20 の革新の一人として受賞。